白い物体との出会い

それは車の免許がとれた友人とその念願に夜、冬の海を見に行ったときのことだ。干潮のため見える雑然とした浜辺と時化が、闇につつまれてより一層、空恐ろしいオーラを放つ中、それを堪能した俺らは市街地へと帰ろうとしていた。帰りは行きとは別のルートを使い、田んぼに家屋がとけこんだ田舎の風景を先ほどとは違う感覚で見て楽しんでいた。

しばらくは、そんな風に全員黙って個々で楽しんでいたが、しだいにその風景から非日常性を見つけてはそれを他のみんなに報告してその度合いを競うようになった。

「おい!この看板、トヨタの旧ロゴマークだ」「まてまて、こっちは伝統的な傘職人の家だ」もう、なんでもよかった。この競争は、珍しいものを見つけて、いかにみんなから同意が得られるかなので、そこに重点をおき一切制限はかけなかった。だから結果的には、色落ちした看板、剥げて何も見えない看板、焼き物の家、水上バイクを3台所有する家、と亜種はいくらでもでてきた。

だが、いつまでも続かなかった。ある程度までいくと、やはり二番煎じが続き、亜種も増えて、というよりそれだけになり、面白みがなくなってきたのだ。それでも、最後の最後まで粘ろうとそれぞれが努力していたが、次第に当初の大きかった声のぶつかり合いが病院での会話程度になり、そして、あとは耳を澄ます必要性を待つのみの状況となった。

俺はみんなよりいち早くそのことを察知し、かなりの消極的姿勢をとり始めていた。ある程度楽しめたし、このあと夜食を食べることが決まっていたのでここらへんで一休みしたかったというのもある。運のいいことに助手席に座っていたおかげで、仮眠の環境が誰よりもいい。これに途中で気づいた時、シートを倒して寝ることに決めた。そうすればおまけにオリオン座が車の屋根のせいで下半分だけしか見えない歯がゆさをもれなく解消できるはずだった。

だが、物体はそうはさせなかった

「キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
後部座席から二波の大音量。力の抜けきった俺の体に電気が走った。心臓ははちきれそうになり、また、ダッシュボードに足が当たって激痛が走った。すぐさま「お前ら、うるせーよ」と怒号を飛ばすため後ろを向こうとした。

その瞬間だった。俺は、やはり後追いで彼らと同じセリフを叫んでいた。フロントガラス越しに見える大きな物体。国旗掲揚でよくみる長いポールを何倍何十倍に大きくした巨大な柱。その柱の一番上についた回転する三枚の羽と明滅する赤い光。風車が見えたのだ。

初風車だ!

媒体でしか見たことがない強烈な非日常性。まさか、こんなところにあるなんて、という驚き。タイミング。港につくられた人口浜とそびえたつ風車のダイナミック、かつ、やすらぎのある風景。それらすべてに衝撃受け、上限のない高揚を味わった。

硬くいえば風力発電。だが、これほどロマンを感じるものは他にないんじゃないか。と風車の周りを何度も歩きながらそんなことを思っていた。そういえば、冬の海はどこへやら。この日の思い出は風車の思い出として強く記憶に残りつづけたのだった。

このあとネットで調べてわかったことだが、今回見つけたこの風車は一年前くらいに出来た新しいもので、ちょうど今開催されている愛知万博の電力を賄っているらしい。閉幕後は電力会社に電気を売って地元に還元されるそうだ。

本当にあなどれない風力発電。それは知れば知るほどそう思う。近いうちにこのことをまとめたいと思っている。ひとまず風車はロマンを兼ねそろえた次世代を担う存在であることを強く俺は言っておきたい。

万博もいいけど、一生に一度は風車を見よう!